犬の皮膚にできる「イボ」は、年齢や犬種を問わず見られる身近な皮膚トラブルです。
一見無害に思える小さなイボでも、放置すると悪化したり、命に関わる病気のサインであることも。
この記事では、犬のイボの種類・原因・症状・治療法・予防策まで、獣医師監修レベルで徹底解説します。「なぜできるのか?」「悪性の可能性は?」「どう対処すべき?」など、飼い主が知っておきたいポイントを網羅します。
犬のイボとは何か?【定義と特徴】

まずは、犬のイボとはどのようなものなのか、その正体について正しく理解しておくことが大切です。イボという言葉のイメージは漠然としていますが、医学的にはさまざまな性質を持つ「皮膚の腫瘤」の総称です。
「イボ」とは、犬の皮膚に発生する隆起やしこり、できものを指し、一般的には良性の腫瘍やウイルス感染によるできものを指します。ただし、見た目だけでは良性・悪性の判断は難しく、専門的な検査が必要になる場合もあります。
大きさ・形状 | 数ミリ程度の小さなものから、数センチを超えるものまで。丸みを帯びていることが 多いですが、表面がカリフラワー状・イボイボしている場合もあります。 |
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できやすい場所 | 顔・首・背中・脇・足先・口の中・肛門まわりなど全身に現れます。 |
年齢や犬種の影響 | 高齢犬に多く見られますが、若い犬や子犬でも発生することがあります。 犬種によっても発生しやすさに差があります。 |
注意点 | 放置してよいものもあれば、早急な治療が必要な場合もあるため、 飼い主の観察と判断が重要となります。 |
犬のイボの主な種類と特徴

一口に「イボ」と言っても、その中身はさまざまです。ここでは、犬に見られる代表的なイボの種類と特徴について詳しく解説します。
ウイルス性イボ(パピローマ)
原因 | 主に「犬パピローマウイルス」による感染。 |
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好発年齢 | 子犬や若い犬(免疫力が未熟な時期)。 |
特徴 | 口の中、唇、顔周辺などに発生しやすい。カリフラワー状の白~淡いピンク色のイボが複数できる。 |
経過 | 多くは数か月以内に自然消失することが多いが、成犬や免疫力低下時は長引くことも。 |
脂肪腫(しぼうしゅ)
原因 | 脂肪細胞が異常に増殖した良性腫瘍。 |
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好発年齢 | 中高齢犬に多い。 |
特徴 | 皮膚の下に柔らかい塊として触れる。成長はゆっくり。痛みやかゆみは通常なし。 |
注意点 | ごく稀に悪性化や炎症を起こす場合があるため、急な変化は要注意。 |
皮膚乳頭腫
原因 | 皮膚の表面にできる良性の腫瘍。 |
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特徴 | カリフラワー状や糸状に伸びた形状で、表面がざらざらしている。 |
発生部位 | 高齢犬の顔や四肢に多い。 |
マイボーム腺腫
原因 | まぶたにあるマイボーム腺の腫瘍。 |
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特徴 | まぶたのふちに小さなイボ状の塊。炎症や目やに、涙が増える場合も。 |
対処法 | 放置すると感染や潰瘍になることがあり、獣医師の診察が必要。 |
悪性腫瘍(メラノーマ、肥満細胞腫など)
特徴 | 形が不規則・色が黒や赤紫・急激に大きくなる・出血・痛みなどが見られる場合は要注意。 |
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注意点 | 早期発見・早期治療が命を守るカギ。良性イボと見た目が似ている場合も多いので油断は禁物。 |
犬のイボができる主な原因

イボの発生には複数の原因が関与しています。それぞれのリスク因子を知っておくことで、予防や早期発見につなげることができます。
ウイルス感染
- 犬パピローマウイルスなどによる感染性イボは、特に若齢犬で多く見られます。
- 他の犬との接触、共用のおもちゃ・食器などから感染する場合も。
加齢・免疫力の低下
- 年齢とともに免疫力が低下し、皮膚細胞のコントロールが難しくなることでイボができやすくなります。
遺伝的な要因
- ゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、シーズーなど、一部犬種ではイボの発生率が高いことが報告されています。
環境要因・紫外線
- 強い紫外線や慢性的な皮膚の刺激、摩擦などもリスク要因となります。
ホルモンバランスの変化
- 避妊・去勢手術後や高齢期のホルモンバランスの変化が、皮膚の腫瘍発生リスクを高める場合があります。
犬のイボの症状と見分け

「イボかな?」と思った時、どのような点に注意すればよいのでしょうか。見た目や症状から、良性・悪性の見極めポイントを押さえておきましょう。
良性イボの典型的な特徴
- 徐々に大きくなる
- 痛みやかゆみがない
- 表面がなめらか・ざらざら
- 出血や潰瘍がない
悪性イボが疑われるサイン
- 急激なサイズ増大
- 色が濃く(黒・紫・赤)、形がいびつ
- 出血や潰瘍、ただれが見られる
- 硬く、周囲とくっついている
- 犬がしきりに舐めたり掻いたりする
- 体調不良(元気消失、食欲低下など)を伴う
日常でできる見分け方
- 1週間ごとに大きさ・形状・色を記録する
- 複数個所に同時にできるか
- 触った感触(柔らかい・硬い・痛がるなど)
- 少しでも不安な場合はすぐ動物病院で相談
犬のイボは放置していい?危険なケースとは

「良性のイボなら様子見で大丈夫」と考えてしまいがちですが、放置していい場合と危険なケースは明確に区別する必要があります。
放置してよいイボ
- 獣医師の診察で「良性」と診断されている
- 大きさ・形状に変化がない
- 痛みやかゆみ、出血が全くない
- 犬の生活に全く支障がない
放置が危険なケース
- 急速に大きくなる、複数箇所に発生
- 出血や潰瘍、ただれがある
- 犬がしきりに気にしている(舐める、掻くなど)
- 周囲の皮膚が赤く腫れる
- 食欲不振、元気消失など全身症状
放置によるリスク
- 良性イボでも、こすれや感染により炎症や痛みを引き起こす
- 悪性腫瘍の場合、転移や命に関わるリスクも
- 「様子見」の判断は必ず獣医師に任せることが重要
犬のイボの診断方法

正しい治療のためには、まず正確な診断が不可欠です。動物病院で行われる主な検査方法について解説します。
問診・視診・触診
- いつからできたか、成長速度、犬種や年齢、過去の病歴などを聞かれます。
- 見た目や触った感触を確認。
細胞診(針吸引細胞診)
- 細い針でイボ内部の細胞を採取し、顕微鏡で調べる。
- 良性・悪性のおおよその判定が可能。
組織検査(生検)
- イボの一部または全体を切除し、病理検査に提出。
- 正確な診断・がんの有無の確定に重要。
画像診断(超音波・X線)
- 大きいイボや内部の状態・転移の有無を調べるために行う。
血液検査
- 全身状態の確認や、他の疾患が隠れていないかを調べる。
犬のイボの治療法・対処法

イボの治療は、その種類や悪性度、犬の年齢や健康状態によって大きく異なります。主な治療法について詳しく解説します。
経過観察
- 良性で症状がない場合は、定期的な観察のみで十分。
- 月に一度は大きさ・色・形をチェックし、変化があれば受診。
外科的切除
- イボが大きい・悪性の疑いがある・生活に支障がある場合に適用。
- 局所麻酔または全身麻酔で行う。
- 切除したイボは必ず病理検査に提出。
レーザー治療
- 表面にある小型のイボや出血しやすい部位に有効。
- 傷の治りが早く、体への負担が少ない。
投薬治療
- 抗生物質や抗炎症薬で炎症や感染を抑える。
- 一部のウイルス性イボは免疫療法やインターフェロン療法が用いられることも。
自然治癒
- ウイルス性イボは多くの場合、数か月以内に免疫力の回復とともに自然に消える。
注意点
- 自己判断でイボを切ったり潰したりしないこと。感染や出血のリスクが高い。
- 市販の人用塗り薬の使用は危険。
犬のイボの予防法と日常ケア

イボの発生を完全に防ぐことは難しいですが、日常的なケアや生活習慣の工夫でリスクを下げることは可能です。
定期的な健康チェック
- シャンプーやブラッシングの際に全身を触ってイボやしこりをチェック。
- 小さな変化も記録し、変化があればすぐ獣医師に相談。
バランスの良い食事と適度な運動
- 免疫力アップ、肥満防止が皮膚の健康維持につながる。
- 質の良いドッグフードの選択、過剰なおやつを控える。
紫外線対策
- 夏場の強い日差しを避けて散歩する、日陰を選ぶ。
- 白毛や短毛犬は特に要注意。
感染症対策
- 多頭飼い・ドッグラン利用時は感染リスクに注意。
- 共用アイテムの定期消毒、犬同士の過度な接触を避ける。
ストレスを溜めない
- 安定した生活環境を整え、犬のストレスケアも重要。
犬のイボに関するよくある質問
飼い主が実際に悩みがちなポイントをQ&A形式で解決します。
犬のイボに悩む飼い主へ ― 早期発見・受診の大切さ
イボは多くの場合で良性ですが、「様子見」の油断が命取りになることもあります。愛犬を守るために、正しい知識と行動を心がけましょう。
- 飼い主が日々のスキンシップやケアで早期発見に努めることが大切。
- 気になるできものは、すぐに写真を撮って記録し、獣医師に相談する習慣を。
- 早期の受診が、重症化やがんの早期発見・治療につながる。
- 「たかがイボ」と侮らず、愛犬の健康を守る行動を。
気づいたときにはイボが大きくなっていて愛犬に苦しい思いをさせないためにも、自己判断で決めつけず動物病院を受診し早期発見と早期治療を肝に銘じましょう。